2012年2月19日日曜日

タンゴダンス棲み分け論~ミロンガ熱力学のススメ 2012

【タンゴダンス棲み分け論~ミロンガ熱力学のススメ】

タンゴダンス関係で一時期騒がれた

マナーの話や、主催者やDJがどうあるべきか?などという議論が最近めっきり減り、


それが少しながらも良い傾向の表れなのか、
それとも逆なのか?
はたまた、趣味なんだからやはり楽しければいいのではないか?

どう思われているのか知りませんが、
今のうちに自分の考えを整理しておこうと思います。


今日書きたいことは、東京を中心に起こっている出来ごとの背景をベースとして、次の5つのことです。

1)東京で起こっている出来ごと
2)ダンススタイルの温度差
3)音楽スタイルの温度差
4)タンゴ場における棲み分け
5)自分の今年のキーワード、横串・音楽・海外、について



0)前置き:熱力学の導入について

ただ、それらが、なかなか一重に書ききれない複雑な現象であることは分かっていて、

今回は、やさしい?理科の力を借りて、
これらを整理してみたいと思います。


とはいえ、理科なんか忘れたという方がいると思いますし、
言葉の先入観が思いもよらぬ語弊を招くと困る繊細なテーマでもあるので、

はじめに、使う理科の用語の意図する意味を明確にしておこうと思います。


『密度』・・・
東京に限らず、空いているミロンガがあったり、混んでいるミロンガがあったりします。

その場の混み具合を『密度』という言葉で表します。
例えば、地球の空気の密度は、地上で1モルが22.4リットルの空気に含まれるなどというのを理科でやったと思いますが、それです。

この密度という言葉は、欧米などのタンゴ運動論の議論などが盛んな国ではよく耳にします。


『圧力』・・・
圧力というのは、地球上の大気圧が1気圧だというのは皆さんご存じだと思いますが、
それは実際に、自分よりも上空の大気が自分に向かって押している力の強さなので、とても分かりやすいものです。

タンゴでもそういう圧力を感じることがありますが、威圧感であったり、周りに与えるプレッシャーのようなものです。

それはとても抽象的な概念なので、ここでは実際にそのような威圧感が自分に力を及ぼす、という仮定の下で話を聞いてください。


『温度』・・・
温度というのは、(流体的な取り扱いができる)空気の分子などの、速度のばらつきの大きさのことです。

タンゴにおいては、直感的には、激しく動いている人がバラバラに動いているというのが高温だし、静かに小刻みに動いているというのが低温だ、と言うことができると思います。

また、後半では、音楽的なバラつきについても、温度で表現しています。
たとえば、ダリエンソのような刻み系サウンドが止めどもなく流れていることを音楽的に低音と表現し、異種音楽やらヌエボやらバラつきが大きい場の状態を音楽的に高温と表現します。

タンゴにおける温度というのは、ダンススタイルであったりDJの選曲スタイルであったりするというイメージになります。


「等圧線」・・・
断熱的な器の中では、おおざっぱには、温度は、圧力に比例し密度に反比例します。

今日使っている図の中で出てくる等圧線というものは、おおざっぱに、そのような断念的な近似が成り立つだろうという仮定の下で聞いて下さい。



1)東京で起こっている出来ごと


まずは、文字で書いても、イメージが湧かないかもしれませんので、
さっそく図を書いてみます。

図1:東京で行われている主な5種のイベント



図1は、東京で2012年時点で行われている、主な5種のイベントを書いてみました。

横軸は密度、縦軸は温度です。色付けは圧力を表していて、等圧線を書いています。


図1aには、温度についてもう少し考えてみるために、温度一定の変化とは何かを表しています。

あるダンサーが自分のダンススタイルを保ちながら、同じような音楽スタイルだけどいつもより混雑している(または、空いている)ミロンガにでかけた場合というようなニュアンスの図です。

図1a:等温的なダンス



たとえばAさんが、自分のダンススタイルを保ちながら、いつもより混雑しているミロンガにでかけたとすると、Bさんにはとてもプレッシャーがかかるということになります。

これはかなり直感的に分かりやすく、たとえば、いつもガランとしている土星から来た人が、いつもの感覚で渋谷でズンと歩けば人に当たるわけです。

また、クラブで育ったCさんが、いつもAさんが遊んでいる比較的すいているスタジオに遊びに行ったところ、その破天荒なダンスがAさんにプレッシャーを与えるかもしれません。


次に、圧力と密度について考えてみます。

図1b:等密度的なダンス



同じくらい混んでいるけれども、人によってはゆったりできるミロンガがあれば、人によってはプレッシャーを感じるミロンガであったりします。

たとえば、Aさんが普段より低圧のミロンガへ出かけた時、Aさんはいつもよりかなりおとなしく(低温に)踊ることが求められます。
この場合Aさんが低温に踊る技術がなければ、Aさんは低圧のミロンガでは周りにプレッシャーを与えてしまいます。深海魚が下手に海の浅瀬に出ようとするとうまくいきませんし、爆発してしまうこともあります。

逆にBさんが普段よりも高圧のミロンガへ出かけた時、Bさんはいつもより頑張って激しめに(高温に)踊ることが求められます。ヤドカリがそのまま深海に降りて行ってもうまくいきませんし、爆発してしまうこともあります。


そこで、このようなAさん・Bさんにとって、どういうミロンガがてっとり早いかと考えたのが、図1cです。

図1c:等圧的なダンス



Aさんは、圧力が同じくらいのミロンガに出かけるのが一番楽です。

逆に、どのミロンガがどのくらいの圧力のミロンガなのか?という情報の発信は、ミロンガ運営のためにとても重要だと思います。

ミロンガ主催の観点からすれば、マナーなどについては「このような考え方の人が集まっている」とか、選曲について「こんなコンセプトでDJしています」とかいう情報発信、そして集客の結果、集ってくるダンサーが作りだす圧力がそのAさんにとっての圧力となります。


もしくは、ダンススタイルの幅があるダンサーであれば、密度に合わせて自分の温度を変えて、ミロンガに見合った圧力を演出することも出来るのかもしれません。どちらにせよ、自分自身が周りの圧力を許容できることが前提です。


2)ダンススタイルの温度差

温度がダンススタイルだけで決まるとすれば、図2のような感じで分類されるでしょう。

図2:ダンススタイルの分類



ざっと書くだけで、かなりのダンススタイルがあります。

どんなダンススタイルが多いかと、図2aにおおざっぱに円の大きさで書きます。

図2a:ダンススタイルの人口分布



それに対して、お店側のポジショニング(2012年)は以下のようです。

一概に、多様なスタイルが集まるイベントになればなるほど、ダンススタイルの多様さが上がるので温度が跳ね上がります。

図2b:ダンススタイルの店側のポジショニング





3)音楽スタイルの温度差

だいたいブエノスではこのような定番がかかる、という感覚が、最近の東京では少しずつ定着しつつある感があります。

ただご存じのとおり、同じ「定番」と言っても、その定番性にはかなりの温度差があります。

図3:選曲スタイルのいろいろ



ここのところ、どんな選曲スタイルが良い?的な会話をしてみると、だいたい図3aのような人口分布がみえてきます。

図3a:選曲スタイルの人口分布



実際に尋ねてみると、まだ「定番」だとか選曲自体への関心は低いことが分かります。

自分の個人的な考えでは、「定番」というものは、見知らぬペアが初めて出会って踊りあうために最高の遊び道具セットだと思います。

だから、そういう「定番」への関心、そしてタンゴ音楽についての関心がもっと深まれば、
もっと面白いと思えるイベントが増えてくれるのではないかと、淡い期待を抱いています。


音楽よりも、集まる人が肝心。それは確かに自分の踊りたい人がいなければ成り立たないダンスなので正しいのかもしれません。

人が、単に人のつながりというだけでなく、音楽やフロアコンセプトを選択して適切な場所に集まるようになる。
というのは、一つのタンゴのステップ、一段階成熟のバロメータだと思います。


図3b:選曲スタイルの店側のポジショニング



スタジオやイベントのコンセプトとしては、DJを前面に出すイベントが急に増えています。
その一方で、あまりDJのブランド作りだけを先行せずに、
本来DJがどうあるべきか?という議論があってしかるべきかとも思います。


4)タンゴ場における棲み分け

現在のところ、私のイメージでは、以下のような棲み分けの図があります。

図4:タンゴ界、棲み分けの図




5)自分の今年のキーワード、横串・音楽・海外、について

正月に、今年の個人的なキーワードとして挙げさせていただきました、3つのキーワード。
横串・音楽・海外、について、もう少し考察します。


図5:横串・音楽・海外




「横串」・・・
横串については、まずは、人物分布を把握すること、それが双方向で理解されることが必要だと思います。

だから、今の東京の現実を理解しつつ、そのイベントならではの踊り場のコンセプトを打ち出せるイベントが生き残っていくのだろうと思います。


そして、一番大きな溝。
既存のダンサーよりも新規のダンサー開拓に重きを置いたイベントと、既存ダンサー向けイベント。


NHKで栗山千明さんのタンゴ番組。

古典的なタンゴの一面があのような影響力のある番組で取り上げられて、とても良いと思います。心から応援してます。

だけど、それだけでは足りない。とも思います。


タンゴ界全体で、番組を見て始めたい!と思ってくれた人へのフォローを欠かさないようにしたいものです。


「音楽」・・・
今の段階では、少なくとも「定番」だけが全てではないでしょう。

ただ、「定番」の良さが全く浸透していない。

特にベテランダンサーを中心とした、ニヒルなまなざしがタンゴ界全体を覆っている。
この点、音楽については先ほども書きましたが、DJブランドづくりよりもミロンガのブランドづくり、そしてミロンガコンセプトの代弁者としてのDJの役割について、もう一工夫が必要なのだと思います。


「海外」・・・
東京で開催されるタンゴフェスティバル、タンゴマラソン、その他国際的なミーティングに、海外から人が来るためには、
最低限、日常的にミロンガが充実していくこと。

アジアを中心として、欧米からも高いお金を払って東京にまで来てくれる。


海外からの来訪者が楽しみにしてくれるようなタンゴってどんなんでしょう?

海外とのつながりについては、詳しくはまた別の日記に書こうと思っています。